【コーヒーと化学】アナエロビック(嫌気性発酵)とは?独特な「味」を生むメカニズムと、カーボニックとの違いを解説

最近、スペシャルティコーヒーの専門店や豆のパッケージで「アナエロビック(Anaerobic)」という言葉を、見かけませんか?
この「アナエロビック(Anaerobic Fermentation)」、日本語では「嫌気性発酵(けんきせいはっこう)」と言います。
なんだか難しそうな漢字が並んでいますが、一口飲んでみると「まるでワイン?」「これ本当にコーヒー?」と驚くような、強烈でフルーティーな香りがするのが特徴です。
そんなアナエロビックの独特なフレーバー、一体どうやって作られているんでしょうか?
ただ「空気を抜いて発酵させた」だけではありません。そこには、微生物の働きをコントロールし、コーヒー豆を化学的にデザインする緻密な計算が隠されています。
今回は「コーヒーと化学」の視点から、アナエロビックの仕組みと味の正体、そしてよく似た「カーボニック・マセレーション( Carbonic Maceration)」との違いについて、分かりやすく深掘りしていきます。
流行りの味の裏側にある「理屈」を知れば、次の一杯がもっとおもしろくなるはずですよ^ ^
そもそも「嫌気性(Anaerobic)」って何?酸素がない密室の事件簿
アナエロビック(嫌気性発酵)は、コーヒーチェリー(またはパーチメント)を密閉できるタンク等に入れて、酸素がほとんど無い環境で発酵を進めるプロセスのことです。
ポイントは「発酵させる」ではなく、「酸素を遮断して、そこで優勢になる微生物の働きを使う」って発想。
発酵って、ざっくり言うと微生物が糖などの栄養を食べて、別の化合物(香り・酸味・質感に効くやつ)を作る現象ですが、このとき酸素の有無で、活躍しやすい微生物や反応の方向が変わるのが化学的におもしろい点です。
酸素と発酵の関係
好気性(酸素あり):
環境次第で酢酸っぽい方向に寄ったり、酸化の影響を受けやすいと言われる。
嫌気性(酸素なし):
酵母や乳酸菌などが関わる発酵の設計がしやすく、独特のフルーティーさや質感につながる
このアナエロビックの大事な点が「密閉したら終わりじゃない」ところ。
発酵中に出るガス(CO2)や温度・時間の管理まで含めて“プロセスとして制御”するのが非常に重要になります。
この「プロセス」を適当に管理してしまうと「発酵」じゃなくて「失敗」になってしまうことも多いため、派手なフレーバーの裏にリスクも同居しています。
味を激変させる「代謝産物」の正体(メカニズム深掘り)
コーヒーの発酵というプロセスで起きている現象を一言で説明すると、チェリーやミューシレージ(粘液質)に含まれる「糖」などを微生物が食べ、酸やアルコール、そして香りの元となる物質(代謝産物)を生み出す、ということです。
この「代謝産物」こそが、アナエロビック特有の「ワイニー(ワインのような)」「トロピカル」「スパイス感」といった、あの強烈なフレーバーを作り出す正体!
また、酵母の働きによってアルコール類が生成され、そこからさらに「エステル」のような芳香成分が生まれることで、独特の華やかな果実感が強調されます。
ここで少し化学的な視点を入れるならば、「pH(水素イオン指数)の低下」が非常に重要なポイントになります。
発酵が進むにつれて有機酸が増え、タンク内のpHは徐々に下がっていきます。
つまり、「どのpH値(どの発酵段階)でプロセスを止めるか」が、狙ったフレーバーになるか、それともやりすぎてしまうかの分岐点となるのです。
そのため生産現場では、単に密閉するだけでなく、時間や温度、場合によってはタンク内の圧力やガスの抜き方といった緻密な管理が、最終的なカップの味に直結します。
逆に言えば、この管理が甘いと過発酵が進み、薬品のような臭いや不快な発酵臭(オフフレーバー)が発生するリスクもあります。
「アナエロビック=無条件に高品質」というわけではない、という点も、押さえておきたい重要なポイントです。
「カーボニック・マセレーション」とは何が違う?
アナエロビックとセットでよく耳にするのが「カーボニック・マセレーション(Carbonic Maceration / CM)」です。
実は「カーボニック・マセレーション」も、広い意味ではアナエロビック(嫌気性発酵)の一種。
ただ、手法に大きな特徴があります。それはワイン作りからヒントを得た「二酸化炭素の強制注入」です。
お店での呼び分けとプロセスの違い
- 単に「アナエロビック」と書かれている場合:
タンクに入れたチェリーが呼吸などで出したガスによって、徐々に酸素を追い出していく「パッシブ(受動的)」な手法を指すことが多いです。 - 「カーボニック・マセレーション(CM)」の場合:
ボンベ等から二酸化炭素を強制注入し、最初から酸素ゼロ・高圧環境を作る「アクティブ(能動的)」な手法を指します。
もともとはワイン醸造の技術。
「同じアナエロビックの一種なら、味も同じじゃないの?」と思うかもしれませんが、カーボニック・マセレーションには「圧力(プレッシャー)」という大きな違いが加わります。
タンク内にガスを充満させて圧力をかけることで、発酵で生まれたフレーバーや果汁の成分が、豆の中(生豆の組織)にグイグイ押し込まれていく(浸透していく)イメージです。
その結果、自然排気で行う通常のアナエロビックに比べて、カーボニック・マセレーションはフレーバーの輪郭がくっきりと強調され、より強烈でジューシーな風味になりやすい傾向があります。
同じアナエロビックというカテゴリーの中でも、カーボニック・マセレーションの方がより「インパクト」や「密度」を感じやすい仕上がりになるのが特徴です。
アナエロビックは「進化」か「化粧」か?
化学の力でコーヒーの味を自在にデザインできるようになった今、コーヒー好きの間で起きた「ちょっとした議論」についても触れておきます。
それは、「テロワール(土地の個性)とのバランス」です。
アナエロビックやカーボニック・マセレーションといったは、微生物の力で「シナモン」や「ワイン」のような強烈なフレーバーを生み出します。
しかし、その味が強すぎると、「どの国の、どの品種を飲んでも、全部あの独特な発酵の味しかしない」なんてことにもなりかねません。
本来、スペシャルティコーヒーというのは、「エチオピアの華やかさ」や「グアテマラのコク」といった、その土地特有の個性を楽しむ文化だったはず。
けれど、強力すぎるプロセス(加工)は、そうした繊細な個性を「発酵レシピの味」で上書きできてしまう、側面も併せ持っています。
これは豆のポテンシャルを引き出した「進化」なのか、それとも素肌を隠してしまう「化粧」なのか。
正解はありませんが、そんな「技術と個性の関係」を頭の片隅に置いておくと、選び方がまた変わってくるかもしれません^ ^
まとめ:賢い消費者として「アナエロ」を楽しむために
今回は、アナエロビック(嫌気性発酵)というプロセスをご紹介してきました。
この記事の要点
- アナエロビックとは:
コーヒー豆の加工において、酸素がない環境を作ることで、酵母や乳酸菌など特定の微生物を活躍させ、意図したフレーバーを作り出す技術 - 味の正体は「代謝産物」:
独特のワイニーさやスパイス感は、微生物が糖を食べて生み出した酸やエステルなどの化学物質(代謝産物)によるもの - カーボニックとは「圧力」が違う:
自然なガスで酸素を追い出すアナエロビックに対し、カーボニック・マセレーションは二酸化炭素を強制注入して圧力をかける手法。
アナエロビックは、コーヒーの可能性を広げる素晴らしい技術です。
しかし、強烈すぎるプロセスであるため「豆本来の個性(テロワール)」を覆い隠してしまう側面もあります。
だからこそ、「流行っているから美味しい」で終わらせるのはもったいないのかな、と思います。
「この華やかな香りは、どこから来ているんだろう?」「豆自体の味はどこに隠れている?」、そんな風に、カップの中にある「化学反応」を想像しながら飲んでみるのもおもしろいかもしれません^ ^












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